目次
原因
各種ウイルスや細菌、マイコプラズマなどが感染し炎症を起こします。免疫機能を低下させる、寒さ、換気不良、ストレスなどの要因が感染を助長します。
初乳給与が不十分な場合や生後1か月齢前後の低栄養は免疫機能の低下を引き起こしますので注意が必要です。
呼吸器病の治癒後に発育不良に陥る個体も多く見られます。
症状・特徴
発熱(39.6℃以上)、発咳、鼻汁、呼吸促迫などの症状が見られます。頭と耳を下げ、元気がない、配合飼料を食べないなどの症状も発見のポイントです。
農家さんができる手当
慢性化すると治りにくく、個体の価値が大きく損なわれるため、「発症させないための管理」と「重篤化する前の治療」に努めるべきです。
他の牛に感染するのを防ぐため、発症牛は隔離し、牛同士の接触を避けてください。
ワクチンは大変有効です。農場の呼吸器病発生状況や多発時期、抗体保有状況などを参考にして、ワクチン接種プログラムを作りましょう。かかりつけの獣医さんや家畜保健衛生所の人に相談してください。
肺炎の予防には、① 免疫を落とさない。② 適切なワクチンを実施する。③ 肺炎を悪化させない。④ 肺炎を広げない。⑤ 肺炎にかかったら適切な治療をする。⑥ 肺炎の後始末はきちっすることが必要です。
獣医師による治療
抗菌薬療法
初診時は広域抗菌薬を主に用います。主に細菌やマイコプラズマの感染を想定して抗菌剤を投与します。農場によって原因菌の感受性が異なるため、できれば定期的な感受性傾向を調べることが望ましいです。
慢性の細菌性肺炎に移行していた場合はペニシリンやオキシテトラサイクリンは効かないので、ツラスロマイシン、セフチオフル、エンロフロキサシンなどの第二次選択薬を適用することになります。
気管支炎の段階でβラクタム系などの強い抗生物質を用いると、炎症が引き起こされて肺の繊維化がおこり、呼吸器症候群へ移行します。
支持療法
抗炎症療法 | コルチコステロイド | 高い抗炎症効果と解熱効果、免疫抑制、妊娠牛不適応 | |
NSAIDs アスピリン フルニキシメグルミン | 第四胃潰瘍と因不全 | ||
抗ヒスタミン剤 | 塩酸トリペレナミン ジフェンヒドラミン | 安全性が高いが、効果発現は十分でない | |
気管支拡張剤 | アトロピン | 呼吸困難、開口呼吸、肺水腫、1日2回、0.05mg/kg | |
ネオアス注射液 | 心拍数の増加や不整脈を生じる可能性が高いので、脱水を伴う重度の呼吸困難症例では使用をさせる | ||
輸液療法 | 別ページに記載 | ||
うがい | 生理食塩水500mL+イソジン50mL | 一週間続けることで咽頭炎が治癒 |
重症の症例の治療
子牛の呼吸器疾患は治癒後に発育不良に陥る症例が散見されます。肺の換気能力の低下を補うため呼吸筋の運動量が増加することで生体のエネルギー要求量が増加し,更に発熱などで食欲不振が続けば負のエネルギーバランスが続くことになります。血糖値の低下は糖新生による血糖値の維持が破綻していることを示し、生体内のタンパク欠乏をも示唆する深刻な所見となります。肺炎子牛の血糖値が<81.0mg/dLの場合,死亡リスクを示します。
栄養療法は可能であれば食べさせるが基本ですが、食べない場合は輸液を行います。アミノ酸とブドウ糖の併用は必須です。肺炎を罹患している場合、透過性が亢進している肺間質に貯留し肺水腫が増悪することを防ぐために、輸液の前に抗炎症剤を投与する必要があります。
50kg子牛における侵襲時のアミノ酸輸液 酢酸リンゲル2,000ml、25%ブドウ糖500ml、TEO処方10%アミノ酸製剤(アミパレン)300ml 3時間以上かけて持続点滴、必要に応じて朝夕2回
参考文献
- 松本大策:まだまだよくなる繁殖管理,日本畜産振興会,173-179(2011)
- 鈴木一由ら:肺炎における体液と栄養管理,病態からみた牛の輸液,緑書房,東京,275-279(2016)
- 塚野健志ら:肺炎子牛の栄養状態と臨床現場での栄養療法の考え方,臨床獣医,(10),14−15(2020)
- 鈴木一由:牛呼吸器疾患の臨床薬理学,臨床獣医,(9),12-17(2017)
最終更新日:2022.1.18
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