腹囲膨満をしめす疾患

病的な腹部の膨らみ方

病的な腹部の膨らみが見られる場合、以下の6つのタイプがあり、それぞれ腹腔内のどの部分に問題があるのか推測することができます。

  1. 左側膁部が膨満するタイプ
  2. 右側膁部が膨満するタイプ
  3. 右側下腹部が膨満するタイプ
  4. 左側膁部と右側下腹部の両方が膨満するタイプ
  5. 両側の腹部が円形に膨満するタイプ
  6. 両側下腹部が膨満するタイプ

牛のお腹の右側はほとんど第一胃ですが、左側は消化管のいろいろは部分があるので、聴診することでどの部分に問題があるか予測することができます。最終的にはその他の臨床症状、直腸検査、血液検査、超音波検査などで診断します。

主な疾病の説明

第一胃鼓脹症

第一胃で産生されたガスのゲップができなくなることで生じます。原因は大きく3つに分けられます。
①牛が横臥していたり第一胃の内容が泡沫状だったりして噴門部が胃内容物で覆われゲップができない場合
②食道内の異物や圧迫、噴門部の腫瘤により食道や噴門部に異常がある場合、子牛では肺炎などで食道周囲のリンパ節が腫大している場合
③低カルシウム血症、ルーメンアシドーシス、哺乳子牛でのミルクの第一胃内流入などの場合。
飼料の面では水分や可溶性タンパク質を多く含んだマメ科牧草の多給、濃厚飼料の多給や盗食などで第一胃内容が泡沫状になったり、急性のルーメンアシドーシスで胃の運動が停止したりすることで発症します。
治療は胃カテーテルや第一胃に直接針を刺すことでガス抜きをします。第一胃の内容物が泡沫性の場合は消泡剤や活性炭を投与ます。改善が見られない場合は手術で第一胃の内容物を除去する場合もあります。

盲腸拡張症

配合飼料や飼料用トウモロコシの多給によって盲腸内で揮発性脂肪酸が過剰に生産され盲腸が拡張する疾患で盲腸捻転に移行すると症状が重篤化します。
症状は突発的な食欲低下、排糞量の減少、乳量の減少、第一胃と腸管運動の低下で、症状が進行すると脈拍が早くなったり、腹痛の症状を呈します。
直腸検査により盲腸尖が触知される場合はカルシウム剤や消化管運動亢進約、下剤などの内科療法で改善が見られますが、内科療法で効果が見られない場合は外科療法を行います。外科療法により約90%の症例は症状が改善します。

出血性腸症候群

小腸の粘膜下で出血し、その血が固まることで腸管が閉塞若しくは狭窄して発症します。特徴的な症状はゼリー状の血の塊を含む暗赤色の血便です。突然の食欲廃絶、泌乳量の激減、低体温、皮温の低下、眼球陥没、腹囲膨満のほか、腹をけり上げたり立ったり寝たりを繰り返すなどの腹痛症状が見られます。病気の進行が早く、数日のうちに起立不能の陥り死亡することがあります。泌乳最盛期の発症が多い傾向があります。

迷走神経性消化不良

迷走神経性消化不良:①第一胃の内容が第二胃・第三胃から移送なれない場合(第三胃移送障害)と②第四胃の内容が幽門部から移送されない場合(幽門移送障害)の2つに分けられます。いずれも第一胃の内容は軟化し、嘔吐することもあります。幽門移送障害では排便はほとんどなくなります。第三胃移送障害は創傷性第二胃腹膜炎に、幽門移送障害は第四胃捻転手術後に継発することが多いです。いずれも慢性経過をとり、予後不良のことがほとんどです。

腹膜炎

他の疾患からの二次的な感染で起こります。例えば創傷性第二胃炎、穿孔性第四胃潰瘍、腸捻転や出血性腸症候群などによる腸破裂、分娩時の子宮穿孔、膀胱破裂などです。
症状は限局性か広範囲に感染が広がっているかで異なります。限局性の場合は癒着などで消化管の機能障害が起こり、慢性的な食欲不振により削痩します。感染が広範囲に及ぶ場合は急速に悪化し最終的に起立不能に陥り死亡します。
治療は感染のコントロールのための全身的な抗菌剤投与と脱水症状による輸液ですが、一次的な原因によっては治療を行わず、予後不良と診断する場合もあります。

参考文献

  • 田島誉士,小岩政照:テレビドクター4 よくわかる乳牛の病気100選,デーリィマン社(2017)
  • 田口清:臨床獣医,31(7),44-48(2013)

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