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原因
発病要因は解明されていませんが、誘因として、前回分娩時の膣の損傷、膣周囲組織への重度の脂肪沈着、粗悪な粗飼料の大量摂取、寒冷気象と大きくゆるい陰門を持つ牛、遺伝的要因(特にヘレフォード種)などがあります。
エストロジェンまたはその類似物質は膣脱を助長します。クローバー類の牧草、かびたトウモロコシや大麦の大量給与、発情、妊娠末期、卵胞嚢腫などが関与します。
妊娠末期の腹圧の増加、前高後低姿勢も物理的要因となります。
症状・特徴
膣脱とは膣の一部または全部が陰門から一時的または長期にわたって脱出する状態をいいます。
第1度:牛が横になっているときにのみ陰唇から膣の壁が脱出
第2度:膣壁は持続的に脱出しており、そのまま放置すると膀胱の脱出を併発し、尿道がねじれて排尿を障害することになります。
第3度:子宮頸管と膣のすべてが脱出する。もし子宮頸管の粘液栓が物理的に傷害されると、緊急の敗血性流産が起こる可能性があります。
第4度:脱出が長期間にわたり、重度の壊死が起こる。膣周囲の組織と隣接臓器、特に膀胱が癒着します。腹膜炎が起こり予後は非常に悪くなります。
農家さんの手当
第1度であって膣粘膜の傷害や炎症が少ない場合は保存的な療法で治癒する可能性がありますがそれ以外は手術を行って脱出を防止するか膣を固定する必要があります。
分娩が近い軽症例では単房に移して看護したり、後ろが前よりも5~15cm高くなるように牛床を保って分娩を待ちます。
獣医師の治療
整復
硬膜外麻酔下で行います。脱出した腟をよく洗浄し手で完納します。再発防止の方法は複数ありますが、ビューナー法がよく使われるようです。
陰門閉鎖法:ビューナー法,牛の鼻環、ボタン、FRANK法(靴紐のように閉じる)、インスロックタイなどを使う方法があります。
ビューナー法 by シェパード中央家畜診療所 – YouTube
圧定帯装着法:自作した圧定器を外陰部に当て自転車のチューブで体に固定しますが、圧定器が外れやすいため、一時的な方法です。
その他:頸管恥骨前腱縫着法、Minehev法、マットレス縫合による陰唇閉鎖法などがあります。
参考文献
- 浜名克己:Ⅷ.雌の繁殖傷害,獣医繁殖学,文永堂出版,東京都,354-355(1995)
- 星修三ら:9.妊娠期における異常,改訂新版 家畜臨床学,朝倉書房,東京都,297-299(1990)
- 高桑一雄:ⅩⅩⅠ腟脱整復,家畜臨床処置と手術の要領 家畜共済点数表準虜,共済薬事,東京都,261-266(1983)
- 田中幹郎:牛の腟脱の手術,獣医外科手術,
- 高橋貢訳:大動物の外科手術,牛の陰門固定縫合法(Buhuner氏法),文永堂,東京都,298-301(1992)
最終更新日:2020.1.25
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